今日はあえて仕事の話>ある種の高度医療批判2008/11/03 23:00

 私はブログや公開日記では仕事の具体的なことに関する話は書かない主義ですが、今日はあまりにもあまりなので書いてしまいます。ただし、かなり専門的な内容で書きますので、ほとんどのみなさまにはなんのことやらということになると思いますと、最初に謝っておきます。要は、実験的治療を受けたかたの合併症のことと、この治療をやった大学がそのフォローをしていないということについての批判。

 視床出血の後遺症の視床痛で長らく悩んでおられるかたがおられます。彼およびそのご家族は、そういう「藁をもつかむ」気持ちを隠そうとしないために、いままでもさんざん民間療法的なものの餌食になっていました。そのたびに私は注意を喚起していましたが、それでも何度も騙されておられました。こういう「人の弱みにつけ込み業」は、まあ一種の詐欺だと思いますが、これは私にはどうしようもない。

 昨年、この視床痛に対して下垂体へのガンマナイフ照射が効果ありという論文があるというのを、インターネットでご家族が探してこられました。まあ、一介の町医者である私には、有名大学の一流教室が「ある程度の割合で効果があり副作用は少ない」とする報告を見せつけられて、しかも大学の治療であまりお金がかからないということから、ご家族の気持ちを止めることができませんでした。視床痛が下垂体焼却で抑制させられるというのは、なんだか眉唾、よく考えて単なるプラセボ効果くらいではないのか、さらにまた下垂体などという重要臓器にそんなに簡単にガンマナイフを当ててほんまにええのかと、じつはかなり懸念したのでした。

 その治療のための上京から戻って3ヶ月ほどして、たしかにその治療の説明ではされていたSIADH(抗利尿ホルモン過剰分泌症候群)をみごとに発症、これは近くの病院に依頼して主として水分制限でおちついたものの、今年の夏になってそのような検査所見が再発、再入院してもらったところ、下垂体後葉ホルモンである抗利尿ホルモンの異常だけでなく、前葉ホルモンの機能低下も発見されました。代替療法で軽快して先週退院してこられましたが、今日退院後の初回訪問診療をしたら、数日前からサラサラの鼻水がひどく出る、鼻風邪みたいだから風邪薬が欲しいとおっしゃ。る。

 脳外科を経験しておられる医師はピンとこられたかもしれません。ガンマナイフで硬膜や薄いとはいえトルコ鞍の底が抜けるかどうか私には分かりませんが、私もこれは髄液漏ではないかと思ったのです。手持ちの尿検査用テステープを鼻水にあててみたらブドウ糖が強陽性。うーーーむ。

 で、ガンマナイフ治療をなさった医療機関(大学)からは、この患者さんにその後のことについてのフォローの連絡はまったくありません。主治医である私が報告すべきなのかもしれませんが、一度最初のSIADHのときにメールしたものの返事はなし。今回はいろいろ結果が出てからもっとオープンな場で報告しようかとも考えています。

 うーーー。