有床診療所の火災事故2013/10/12 21:25

福岡県の有床診療所で不幸な火災事故がおきた。多数のかたが犠牲になられたことにまず哀悼の意を表する。

さて。

メディアはこれからこの診療所に対してどういうスタンスの報道をするのだろうか。いまのところ、数年前から続いた老人ホームやグループホームの火災のときほどの一方的かつ表層的な非難の論調がみられていないように思う。もちろん、この診療所の管理者である医師の両親が亡くなっておられるということがメディアの矛先を鈍らせていることもあるかもしれない。

で。

多くのメディアがここを「病院」と表現し、かつどういう人たちが入院していたかという点についてじつに非現実的な論調だったのが笑える。今回は私の守備範囲なので簡単に底が割れたが、つまり多くのメディアはそのていどの裏取りで全国に向けて大きな顔をしてニュースをタレ流しているわけだ。

医療法 第一条の五  この法律において、「病院」とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、二十人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいう。(以下略)
2  この法律において、「診療所」とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、患者を入院させるための施設を有しないもの又は十九人以下の患者を入院させるための施設を有するものをいう。
3 (以下略)

「有床診療所について」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1120-6f.pdf

もともと有床診療所の機能とは、外来で診療した患者さんのうち、経過が気になるかたを数日入院させて治療と観察するためのものだった。院長は同じ建物か敷地内に住んでいて、なにかあればすぐ寝間着姿ででも病室に行く。だから当直医はいない。看護師はいちおう詰所にいることになっているが、院長が同じ屋根の下にいればとくに夜はいなくてもよい(というかそういう規定がない)。

つまり、ちょっと気になるから診療所の一角に泊まっていってよ、なにかあれば私が診るからというのが始まりだ。

その点が医療法に規定されている病院と診療所のきわめて大きな違いである。にもかかわらず、報道ではそんなことはほとんど振れていない。知らないのか、あるいは知っていてもあえて振れないのか。

もうひとつ、前述の厚生労働省の通知のように、もともとは短期間の経過観察の入院機能に限られていた有床診療所が、近年は病院や介護施設に対応されないような高齢の寝たきりのかたの受け入れ場所になっているという現実がある。今回の犠牲者も多くは高齢者であり、報道される内容からは多くのかたが寝たきりになってほかが対応してくれなくて入院しているように思えた。

医療介護の、表では目を背けている、歪みだ。

もうひとつ。

おそらく今回の事故の報道を見て多くの医療や介護の現場で働いているひとたちは
「やむをえない、どうしようもない」
と言うのではないだろうか。

ほとんど自分ではなにもできないかたが数十人おられる医療・介護の施設で、夜間はよくて二人、たいていは一人で勤務していて、火災や地震などの突発的なことがあったら、まずもうどうしようもない。それはもう訓練とかマニュアルとかいう脳天気なアリバイ作りではどうしようもない現実だ。

私は若いころ当直医の勤務を頻繁にしていたころから
「いま火事になったらまあどうしようもないわな」
と思っていた。無責任だと言われても無理なものは無理。それはおそらく今でも同じだ。たかが嘘のような対価と最低限の人手で24時間365日の突発的な事象にまで対応できるはずはない。

集団生活では自分での危機管理も無理だ。そもそもそういう対処ができないので集団生活になっているわけで、家族などの一対一の対応ができなくなった時点で生命や健康へのリスクは極端に増大することは覚悟しなければならないだろう、悲しいがそれが現実だ。

病院や施設などの集団生活では、家庭で個々に危機管理するほどの緻密さは期待してはいけないし無理だということを覚悟しなければならないだろう。